トピックス0014 評価者のつぶやき11 臨界点

トピックス0014

評価者のつぶやき11
臨界点

2008.01.18 萩本

 

これからユーザビリティ活動を立ち上げていこうと考えている企業の多くは、様々なリスクをかんがみて、最初はなるべく小規模な活動を希望することが多い。この判断自体はもっともなことであり、特に異論はない。しかし一方で、活動を始めたもののその成果が現れないと、ユーザビリティ活動そのものの意義が疑われ、徐々に規模を拡大するどころかユーザビリティ不要説が沸き起こることにもなりかねない。つまり、ユーザビリティ活動の立ち上げには、小規模でありながらそれなりの効果が現れるという要求を満たさなければならない。

ユーザビリティは、ユーザの心理に訴えるという特性ゆえ、通常の製品設計のスペックと同じような考え方が適応できない場合があるように思う。

例えば、ある設計者が製品Aの軽量化に取り組んでいたとしよう。目標は、2kg。現在の設計では2.5kg。-500gを目指して設計を見直した結果、2.1kgまで軽量化することができた。目標の8割ではあるが、それでも2.5kgより改善されたのは明らかで、これを「目標の8割を達成した」と評して問題はなかろう。

では、製品Bの文字表示が読みづらいというユーザビリティ上の問題改善の場面ではどうか。現在の文字サイズは7ポイント。しかし12ポイント以上ないとユーザには判読できないことがわかった。設計者は努力を重ねたが、結局10ポイントまでしか拡大できなかった。+5ポイントが目標だったものが、+3ポイントの拡大しかできなかったのである。

 

さて、これを「目標達成6割」と評していいのだろうか?ユーザにとって、その文字が判読できるかどうかが唯一の問題である。読めない文字が7ポイントであろうと10ポイントであろうと、読めないものは読めないのである。従って、ユーザビリティ的にはこれを「全く改善されていない」と評さなければならないことになる。

製品Cは、ある操作を実行するのに「モード」ボタンを押しながら「スタート」ボタンを押し、LEDが点灯している間に3桁のコードを入力し「Enter」を長押して決定させる必要があった。ユーザビリティ評価の結果、ユーザにはこの操作手順が非常に難しく、つまずきが続出することがわかった。改善目標として、この操作のストレスをなくすことを掲げ設計変更しようとしたが、結局ソフト的ハード的変更は間に合わないことがわかり、説明書に図を付け加えるという対応を行った。

作り手として、説明書に手を加えたのだから多少なりとも改善されていると言いたい気持ちはわかるが、残念ながらユーザはそうは受け止めてはくれないだろう。この問題の本質は手順の難しさそのものにある。説明は所詮説明。手順が難しいことをいくら丁寧に説明されても、それで「納得しました」と引き下がるユーザがどこにいるだろう。もしかしたら「わかっているのに、なぜ直さないのか」と、かえって不満の声が上がるかもしれない。「全く改善されていない」どころか、むしろストレスが増したという見解になるおそれすらある。

ユーザビリティの難しいところは、製品Aの例のように設計側の改善量とその効果が比例的な関係ではない場合が多いということにある。製品B、Cの例のように少々の改善量では全く効果が現れず、あるレベルを超えると急に効果が現れたりする。いわば“臨界点”のようなものが存在すると言えば理解しやすいか。ユーザビリティ活動の成果を得たいのであれば、どうあってもこの臨界点を超える必要があるのである。

グラフ

ユーザビリティ活動の立ち上げ時に、小規模にしか活動できない場合、当然何かを削らなければならないのだが、上記の理由で改善量を削ることは得策ではない。では何を削るのか。評価範囲、すなわち評価対象製品数や評価対象機能数を削るべきである。究極的には、たった一つのタスク、たった一つの画面、たった一つのボタンだけでも構わない。その代わり、きちんとした方法と規模(機材や被験者の人数など)で評価し、本質的な改善を行うのだ。そうすれば必ず効果は見えてくるはずである。狭い範囲であっても、成果が上がればその方法論が正しいことに確信が持てる。あとは、同じ方法論を製品全体に適用するだけである。


2008.01.18作成 2009.06.08フォーマット修正