トピックス0010
2005.03.22 萩本
我々のような仕事をしている人間を「ユーザビリティ・エンジニア」と呼ぶ。「エンジニア」というと、一般的には「技術者」を指すわけだが、明らかに「エンジン」と強く結びついた言葉だということがわかる。「エンジン」と聞くと、ちょっと前までは車のエンジンしか思いつかなかったが、最近では「検索エンジン」というのも耳慣れた言葉になった。私が以前勤めていた会社ではプリンタのコア技術のことを「マーキング・エンジン」と呼んでいた。「エンジン」を辞書で引くと「機関」とか「動力」と説明されているが、暗に「心臓部」という意味があるように思える。
いつだったか、異業種間での技術交流の重要性について何人かで話をしていたとき、誰かが「そうは言っても、車のエンジンの設計者が急にプリンタ業界に来たとして、どんなにその人に力があっても、プリンタのエンジンをすぐに設計することは無理」と言った。それはそうだろう。名前こそ同じ「エンジン」でも、技術的には全く別のものである。車のエンジンで培ってきた知識や技術の大部分は全く役に立たず、ゼロからプリンタの勉強をしなければならない。
では、車のコンパネをデザインしていた人がプリンタのコンパネを設計するのはどうか?おそらく、エンジンの設計と比べればはるかに簡単に適応できるはずだ。コンパネをどのように設計するか、その多くはユーザの特性に起因する。車を運転する人もプリンタを使う人も、基本的には同じ特性を持った人間である。同じ発想で設計することができるのである。ガソリンの残量を示す方法と、インクの残量を示す方法はほとんど同じといっていい。
このように考えてみると、人間の特性に焦点を当てたユーザビリティの世界というのは、そもそも業種の垣根がないように思える。逆に言えば、常に異業種に目を向けることが非常に重要になる。例えばプリンタの評価をしていて、インク残量がわかりにくいという問題が見つかったとする。その改善方法の考えるため、別のプリンタを調べてみるのも悪くはないが、ヒントを得るためなら、車のガソリン残量表示方法を調べてもいいし、デジカメのバッテリー残量、アイロンの水の残量、タイマーの時間の残量なども、すべて手がかりになる。むしろ、同一業界から得られるヒントは陳腐になりがちで、視野を狭くするというデメリットさえあると思う。
分野同士の区切りがないことを不安に感じる人もいるのだろうが、ユーザビリティの窓から世界を眺めると、普通は別のものとして捉えられているものが当たり前のように隣に並ぶ。私にとっては、この感覚がたまらなく面白い。
2005.03.22作成 2009.06.09フォーマット修正