トピックス0009 評価者のつぶやき6 タスク主義

トピックス0009

評価者のつぶやき6
タスク主義

2005.02.02 萩本

 

ユーザビリティに関する要素の中で、私にとって今一番ホットなのは「タスク」である。タスクというと、製品のユーザビリティテストを行うとき、被験者に与える課題のことであるが、最近私は、むしろ“タスクのユーザビリティテスト”の小道具として製品を使っているに過ぎないのではないかと思うようになってきた。

例えば、こんなことを考えてみよう。雨の日、あなたはカサを持って電車に乗る。混んでいるので座ることはできず、つり革につかまることにする。読みかけの本がカバンの中に入っているので、まず本を取り出し、カバンは網棚に上げたい。この動作を、周りの人に迷惑をかけずに行うために、さてカサをどうしよう?

ここには、「カサを持って電車に乗り、カバンを網棚に上げる」というタスク(人がやりたいこと)が明確に存在する。そして、それがやりにくいという問題も明白である。では、評価対象製品は何?カサ?確かにカサを改良して自立するようにすれば、この問題は解決する。カバン?片手で簡単に持ち上げられるように改良すればいい。いや、電車内のインテリア?車内にカサ立てがあれば、網棚に工夫があればよかったとも考えられる。さらに言ってしまえば、「私が代わりに網棚に載せましょうか?」と声をかける優しさを浸透させることでも、この問題は解決できるのだ。

実は、製品に着目するのではなくタスクに着目する分析方法は、特別目新しいものではない。ただ、こういう観点を意識したことがない人にとって、タスクを評価するということは少々捉えにくい概念なのかもしれない。ユーザビリティ評価の経験がない人にタスクを作ってもらうと、十中八九、ただ機能を使わせればいいんだろうと考える。結果的には同じことかもしれないが、「暗いところでくっきり写真を撮ってください」という指示と「ストロボをたいてください」という指示では、質的には大違いである。

タスクという概念を理解することと、ユーザの真の目的を見極めることはかなり近い。プリンタドライバをインストールすることはユーザの目的ではない。ユーザはプリントできるようにしたいだけだ。カサを立てることは手段であって、真の目的は周りに迷惑をかけずにカバンを網棚に載せることだ。ユーザにとって大事なのは目的であって、手段はどうでもいいのである。どうでもいいことなのにテクノロジーの限界ゆえ、どうしてもある手順を踏んでもらわないといけない。だからこそ、このプロセスでユーザに負担をかけてはいけないのである。ここには、必ずしも特定の対象製品が存在するとは限らない。たまたまある製品の改善を目的に評価した場合には、その製品にフォーカスを当てることになるというだけである。製品のないタスクはあっても、タスクのない製品はあり得ない。やはりタスクは重要なのである。


2005.02.02作成 2009.06.09フォーマット修正