トピックス0008 評価者のつぶやき5 “わかる”と“わからない”の間

トピックス0008

評価者のつぶやき5
“わかる”と“わからない”の間

2004.08.09 萩本

 

日本人が英語を習うと、必ず「L」「R」の発音が区別できずに困る。私の中学の時の英語の先生がこんなことを言った。

「もし英語をきれいに発音できるようになりたかったら、発音のきれいな日本人に教わりなさい」

なぜネイティブのアメリカ人やイギリス人ではなく日本人なのか。ネイティブの人たちは、日本人にとってなぜ「L」「R」の区別が難しいのかを理解できない。彼らにとって「L」「R」は明らかに違う音である。明らかに違う音を明らかに違うように発音するのは、当たり前のことであって、努力もコツも必要ない。つまり彼らは、どう努力すればいいのか、どんなコツがあるのかを教える術を持っていないのである。一方、発音のきれいな日本人は、 「L」「R」が難しいことを体験しており、どうすればそれを克服できるかを実体験として知っている。こんな心強いことはない。彼らなら「L」「R」を上手に発音する工夫やコツをわかりやすく教えてくれるだろう。

“わかりやすい”ことは“わかる”ことと同じではない。“わかりやすい”は、“わかる”ことと“わからない”ことの間にあるのだ。ユーザビリティの悪い製品は設計者の独りよがりで作られているとよく言う。製品のすべてを“わかって”しまっている彼らが、彼らの視点で製品を設計することは、ネイティブ・アメリカンが日本人に「L」「R」を教えるようなものだ。もちろん、何も“わからない”人に“わかりやすい”製品が作れるはずもない。つまり“わかりやすい”製品を作るためには、“わかる”ことと“わからない”ことの両方を理解する必要があることになる。

では、設計者にはわかりやすい製品は作り得ないのかというと、そんなことはない。彼らだって、絶対に“わからな”かった時期があり、それが“わかる”ようになった瞬間を体験しているはず。それが思い出せないだけなのだ。これからは、自分が“わからない”状態から“わかる”状態へと移り変わる、そのプロセスすべてを頭に刻み付けるようにしてほしい。

例えば、はじめは“わからな”かったのに、ある表示に気がついた瞬間に“わかった”とする。つまり、その表示を気づきやすくすることが“わかりやす”くするための手段である。ほら簡単。最初“わからな”かったのに、人に説明されたら“わかった”場合。“わかりやす”くするためには、その説明に匹敵するようなメッセージかヘルプがあればよい。どうということはない。

今30歳の人は、必ず10歳だったことがある。今身長が160cmの人は、必ず120cmだったことがある。初めて電車のつり革に手が届いたときのこと、初めて分数の意味がわかったときのこと、初めて縦列駐車ができたときのこと、そういう何げない記憶が製品を“わかりやす”くするヒントになる。

ステキな思い出で、ステキなUIを。


2004.08.09作成 2009.06.10フォーマット修正