HR2009-07 正しい機器操作だけではダメ!? 初めてAEDを使ったら…

HR2009-07

正しい機器操作だけではダメ!?
初めてAEDを使ったら…

2009.07.31 田渕

調査のきっかけ

ショッピングモールに設置されているAED 市役所に設置されているAED 駅に設置されているAED 山小屋に設置されているAED
ショッピングモール 市役所 山小屋

駅や空港、学校、ホテルなど多くの施設で見かけるようになったAED(自動体外式除細動器、Automated External Defibrillator)。AEDは、心臓が突然細かく震えて血液が全身に送り出せない状態(心室細動)になったとき、心臓に電気ショックを与えて元の動きに戻すための除細動を行う医療機器です。

これまで医師やそれに準じる有資格者しか扱えなかったAEDは、2004年7月から医療従事者でない一般市民でも緊急時に使用できるようになりました。

ということは、AEDを一度も使ったことがない人も、AEDを使わねばならない事態に遭遇することがあるかも知れません。はたして、AEDを初めて使う人でも、緊急時にAEDが正しく使えるのでしょうか?

今回は人命に関わるAEDについて、使い手の世界に迫ってみたいと思います。

AEDを使ったことがある人はどれぐらいいるの?
(アンケート調査より)

まずはじめに、当社にご登録して頂いているモニターの方を中心に、AEDについてアンケートを実施しました。回答者数は89人(女性49人、男性40人)。10代から70代まで、幅広い年齢層から返事を頂きました。予想を遥かに超える回答数だったので、AEDに対する関心が高いことがうかがえました。

質問は以下の6つ。

アンケート結果

Q1とQ2では、全体の約80%の人が見たことがある、知っていると回答しました。Q3では「名前も何をする機器かも聞いたことがあるが操作方法は知らない」と回答した人が全体の66%いました。操作方法も大体分かる、と回答した人は30%いました。Q4では、使ったことがないと回答した人は全体の82%いました。この結果から、AEDの知名度は高いけれど実際に使ったことのある人は全体の2割に満たないのが実状のようです。

Q5、Q6の心肺蘇生(人工呼吸と心臓マッサージ)の経験者は、どちらも全体の約半数にとどまりました。回数は経験者の約半数が1回だけで、経験者の約40%が2〜3回でした。結果から心肺蘇生の経験率は決して高いとはいえないことが分かりました。

ところで、今回はAEDがテーマなのに、どうして心臓マッサージの話が出るんだろう?と思われた方がいるかも知れません。実は、この心臓マッサージこそ、AEDを使う上でのキーポイントだったのです。

友人が意識を失って突然倒れた!
(ユーザビリティテストの実施)

次に、アンケートの回答者の中から被験者として参加協力して頂き、以下の要領(1〜6)でAEDのユーザビリティテストを行いました。

(1)タスク

あなたは友人と一緒に、駅近くの公園でジョギングをしていました。

走り始めて15分ほど経ったとき、友人の様子が急におかしくなりました。そして突然、路上に倒れ込んでしまいました。あなたは友人の肩を叩いて、大声で友人の名前を何度も呼びましたが、反応が全くありません。鼻や口に耳を当てても呼吸をしている様子がありません。

たまたまそばを通りかかった人が、電話で119番通報してくれました。そして、近くの駅からAEDを持ってきてくれました。救急隊員の話では、AEDがあれば直ちに使うようにとのことです。

AEDを使って友人に処置をしてあげてください。救急車が到着したらタスクは終了です。

(2)参加被験者のプロフィール

被験者(11人)は全員、AEDを一度も使ったことがありません。心臓マッサージの経験がある人は11人中4人(3人は1回、1人は6回の経験あり)、無い人は11人中7人でした。

参加被験者のプロフィール

(3)AED

テストでは、音声案内機能があるAED訓練器(1台)とマネキン人形(1体)を使いました。AED訓練機は、ショックボタンを押しても電気ショックは流れませんが、その他の操作は実機と同様になっています。

(4)傷病者の状態

AEDは傷病者の心電図を自動診断して、電気ショックを与えるかどうか判断をします。テストでは電気ショックを2回の与える設定にしました。

(5)実施環境

(6)AEDの操作手順

1.AEDの電源を入れる→2.傷病者の上着をはだける→3.電極パッドを胸に貼る→(AEDが自動診断)→4.ショックボタンを押す→5.胸骨圧迫(心臓マッサージ)を救護者が実施→(AEDが自動診断)→再度、ショックが必要なら手順4、ショックが不要なら手順5 →6.電極パッドを装着した状態で救急隊に引き継ぐ(終了)。

※人工呼吸は省略しています。

AEDを受け取ってから、電気ショックを与えるまでにかかった時間は? 
(テスト結果より)

心臓が心室細動を起こすと、1分経過するごとに約10%、助かる確率が減っていくといわれています。(財団法人日本心臓財団より引用。http://www.jhf.or.jp/aed/qq.html

つまり、電気ショックを与えるまでの時間が短くなるほど良いということになります。目安としては3分以内が望ましいそうです。

被験者11人の平均所要時間は2分47秒でした。3分以内にできた人は11人中7人(64%)いました。3分以上掛かった人は11人中4人(36%)いました。Cさんだけ、途中で進行係の助言を受けたため、大幅に時間が掛かりました。

AEDを受け取ってから、ショックを与えるまでの所要時間

速い人で1分40秒、遅い人で3分以上掛かっており、使う人によって所要時間にバラツキが生じることが分かりました。

AEDを初めて使うとこのような問題が起こりました 
(テスト結果より)

テストで得られた結果から、いくつかの問題点をご紹介します。

(1)AEDをキャリングケースから取り出すとき、落としそうになる ・・・Kさん

【正しい手順】傷病者の頭の近くに置いてからAEDを取り出します。

Kさん:「立った姿勢のまま、ケースを開けてAEDを取り出そうとしたのでAEDを落としそうになった。」

緊急時は一秒一刻を争うので、救護者はできるだけ早く救護を始めたいと思います。AEDは持ち運びできるようにケースに収納されていますが中身が見えません。そのためジッパーを開けるまでどう収納されているか予測がつかないのです。もし、駆けつけている最中に開けてしまい、落として壊してしまっては意味がありません。AEDは傷病者の頭付近に置いて使うのが基本ですが、ケースにはそのような注意書がありません。AEDを取り出す前にそのことが分かるようにして欲しいと思います。

(2)傷病者の上着は脱がさなくても良いと思ってしまう ・・・Bさん、Cさん、Dさん、Fさん

【正しい手順】マニュアルや電極パッドに描かれたイラストを見て上半身を裸にする。

【注意点】上着を着用したままだと、電気ショックが効果的に流れません。

Cさん:「上着を脱がさなくても服の上からショックが与えられると思った。パッドに描かれたイラストを見ても、裸にするという認識に至らなかった。」

Dさん:「ジッパーを開けただけで全て脱がさなかった。呼吸が止まると体温が急激に低下すると思ったので、上着は脱がせたくなかった。」

Fさん:「ジッパーを開けただけで全て脱がさなかった。全て脱がさなかったのは、傷病者に申し訳ない気分だった。知らない女性だったら戸惑う。スタンガンは服の上からでもショックが与えられるので上着に貼り付けられると思った。」

上着を脱がすことはAEDを使う上で大前提になります。AEDを使う前の準備作業にあたるので、最初につまずくと傷病者に大きなダメージを与えてしまいます。傷病者のプライバシーを気遣うよりも先に、確実に上着を脱がすようにユーザーに指示することが必要です。

(3)パッドの正しい貼り方が分からない ・・・Bさん、Cさん、Kさん

【正しい手順】「パッドを装着してください」と音声案内が流れるので、マニュアルや電極パッドに描かれたイラストを見て、電極パッドを台紙から剥がし、胸の右上(鎖骨の下付近)と左脇腹に貼り付けます。

電極パッド

台紙から電極パッドを
剥がして肌に貼る。
---------→

電極パッドを装着した様子

【注意点】電極パッドを貼った後、心電図の診断中や充電中は体に触れてはいけません。

Bさん:「台紙のミシン目だけを切り離して貼ると思った。台紙からパッドを剥がしていいのかどうか分からなかった。」

Cさん:「台紙から剥がさなかった。直接、肌に貼ると書いてないと分からない。」

Kさん:「心電図の解析中、パッドの向きが気になってパッドを触った。イラストの通りに貼れていないと思い、急に不安になった。」

電極パッドは意外に大きいため(約10cm×15cm)、イラストでは電極パッドと台紙の区別がしづらかったようです。また、電極パッドはAED本体と別のメーカーの製品であることが多く、パッドに書かれた説明だけを見ても、よく分からないことがあります。電極パッドを体のどこに貼り付けるのか、具体的に音声案内で指示してあげることが必要です。

そして、Kさんのように、電極パッドが正しく貼れたかどうかはとても気になります。貼り方が悪くて助からなかったと思うととても不安になるからです。正しく貼れたことが確認できなければなりません。救護者の不安を取り除くことが救助につながります。

(4)電気ショックの後、胸骨圧迫をやらない ・・・Aさん、Cさん、Jさん

【正しい手順】音声案内(「直ちに胸骨圧迫と人工呼吸をしてください」)に従って、直ちに胸骨圧迫を開始します。

【注意点】心臓が細動すると血液を送り出せなくなります。代わりに救護者が胸骨圧迫を行います。AEDはあくまで除細動のきっかけを与える機器であって血液を送り出す機器ではありません。

Aさん:「回復するまでAEDが何度もショックを与え続けると思った。AEDが全部やってくれると思った。自分で何かをするとは想定してなかった。」

Cさん:「AEDの電源を入れ直した。電源を入れ直したのは、ショックを再び与えた方が心臓が動くと思ったから。心肺蘇生なら分かるが、胸骨圧迫の意味が分からなかったのでしなかった。」

Jさん:「AEDが全てやってくれると思っていたので、胸骨圧迫や人工呼吸はしなかった。私がやっていいのかどうか分からなかった。」

AEDを初めて使うケースでは、AEDが全ての処置をやってくれると誤解する人がいることが分かりました。また、電気ショックを繰り返せばいいと思ってしまう人もいるようです。心臓が細動している限り、胸骨圧迫を継続しなければ助かりません。電気ショックを与えるだけでは助からないのです。

せっかくAEDの操作が正しくできても、電気ショック後、直ちに胸骨圧迫を施さなければ命を落とす危険性があることが分かりました。

全ての処置をやってくれるというのはAEDに対する大きな誤解の1つです。AEDを使うということは、心肺蘇生とセットであることを分からせる必要があると思います。

音声案内で「心臓がまだ正常に動いていません、あなたが代わりに胸骨圧迫をしてください」とはっきり指示してもよいかも知れません。

(5)間違った胸骨圧迫をやってしまう ・・・Aさん、Bさん、Dさん、Eさん、Iさん、Kさん

【正しい手順】音声案内に従って胸骨圧迫を行います。(胸骨圧迫の具体的な音声案内や説明はなし)両乳首を結んだ中心に手のひらを重ねて置き、1分間に100回の速さで、胸が4-5cm沈み込むように圧迫します。これを2分間継続して様子を観察します。ちなみに、胸骨圧迫とは心臓マッサージのことです。

【注意点】間違った方法で圧迫を続けたり、正しい方法でも途中で圧迫を中断すると、効果的な血液循環ができません。脳へダメージを与えたり死に至る危険性があります。

Aさん、Bさん:「教習所で習った記憶を頼りにやった。」

Aさん:「自分がやっていることが正しいのかどうか、いつまでやり続ければよいのか分からないので不安だった。」

Bさん:「胸骨圧迫の方法を案内してくれないので正しい方法がわからなかった。」

Dさん、Iさん:「テレビで見た記憶でやった。」

Iさん:「人工呼吸のために胸骨圧迫をやったつもり。正しい胸骨圧迫の方法が分からなかった。やり方が正しいとか、違うとか(強すぎる、ゆっくり)言って欲しかった。」

Kさん:「10年前、市の救急命士の資格を取ったので、そのときの方法を思い出してやった。手で押さえる位置とペースの説明が欲しかった。」

これはテストで最も多く観察された問題でした。胸骨圧迫の経験が無い人や経験の少ない人は、TVで見た記憶や過去に受けた講習を思い出していました。しかし、それらの記憶は曖昧だったり、やり方が間違っていました。

テストで使用したAEDには胸骨圧迫の詳しい説明がなかったため、多くの被験者が戸惑うことが分かりました。(参考:心肺蘇生の詳しい方法を音声案内してくれるAEDもあります)

アンケートで明らかになったように、心肺蘇生の経験が無い人が半数近く占め、経験者でも1回の経験しかない人が半数近くいるので、これらの人達でも戸惑うことなく使えなければなりません。

AEDを初めて使った感想は?

Aさん:「テレビでAEDは誰でも使えると聞いていたのに、意外と分かりづらい。」

Bさん:「AEDの操作自体は難しくなかったけど、胸骨圧迫の方法が正しいかどうかとても不安だった。」

Dさん:「はじめ、AEDが設置されている場所まで傷病者を運ぶものだと思った。AEDは電気製品なのでコンセントに繋がっていると思った。音声で胸骨圧迫の方法を案内して欲しい。」

Eさん:「AEDの使い方よりも、心臓マッサージの方法が正しいかどうかが知りたかった。」

Fさん:「AEDを使う人を落ち着かせるアナウンスが欲しい。」

Hさん:「頻繁に電流ショックを与えると思っていたが、実際はそうではなかった。使い方は思ったよりも簡単だった。」

Kさん:「救急車が到着するまでAEDが全てやってくれると思った。自分が心肺蘇生をするとは思わなかった。」

AEDの操作自体は難しくないとコメントした人が全体的に多かったです。自分も救護活動しなければならないこと、胸骨圧迫が分からずに戸惑うことのほうが大変に感じたようです。

調査の感想

AEDには多くの種類がありますが、基本的な操作手順(電極パッドを貼る→(診断)→ショックボタンを押す→胸骨圧迫と人工呼吸をする)は同じです。被験者のコメントにあったように、AEDの操作に限っていえば比較的、簡単なことが分かりました。しかし、電気ショック後の心肺蘇生の方法を知っているかどうかが、実はAEDの使用においてとても重要であることがわかりました。

AEDには心肺蘇生の音声ガイダンスが流れるものとないものがあるようです。メーカーによって仕様が異なるのは仕方がないにしても、今後、機器を普及させるのであれば、胸骨圧迫の方法を知らない人でも安心してAEDを使えるようにして欲しいと思いました。

胸骨圧迫の方法は電話で119番に問い合わせると正しい手順を教えてくれます。しかし、緊迫した状況で電話で問い合わせることまで気が回るかどうか疑問です。また、通話圏外でAEDを使うかも知れません。

6回以上の心肺蘇生経験のあるHさんは正しくできました。やはり、日頃からAEDや心肺蘇生の講習を受けておけば、対応できるということがよく分かりました。

AEDや心肺蘇生の方法は、各地の消防署や赤十字社が開催しており誰でも参加することができます。また、インターネットで分かりやすく説明しているサイトも沢山あります。テスト結果からも分かるように、万が一に備えて講習を受けておくことはとても大切だと思いました。

皆さんも、この機会に是非、体験されてはいかがでしょうか。


2009.07.31作成 2011.09.07フォーマット修正